どうして時間をずらさなかったのか、とか、すぐに引き返さなかったのか、とか。
脱衣所は別々とはいえよく考えれば分かったはずではないのか、とか。
そんなこと考えがをアッシュの中で延々と繰り返されていた。
今更考えるのは無駄だと分かっている。分かってはいるのだが、しかし何とかしなければいけない気がしていた。
最も、実際はどうすればいいかわからずに、ただただ湯に浸かることしか出来ていないわけで。
すぐ後ろにいるはずのエリスは、今のところ動く気配もない。
二人が入っているのは、とある宿の露天風呂。
そう、「二人で」入っているのがアッシュにとっては問題なのだ。
温泉宿として栄えている地域まで足を運んだ二人は、せっかくだからと宿を取ることにした。無論言い出したのはアッシュだが。
二人が選んだ宿には大衆用の風呂と少人数用の家族風呂がいくつかあり、エリスのことを考慮して後者の一つを貸切にしてもらっていた。
それなのに、気が付けば二人同時に温泉に入ってしまったのだ。一体それがなぜだったのかは、アッシュは未だにはっきりとした理由を思い出せない。
しかし入ってすぐに出るのも失礼なような気がして、そのまま現在に至る。
アッシュは後ろを振り返ったまま、エリスの姿を見ていない。しかし背中に人の気配を感じていた。
その顔がどんな顔なのは想像も出来ないが、殺気は感じられないのでひとまず身の危険はなさそうに思えた。
風呂は二人が入ってもなお場所に余裕があり、うっかり相手の身体に触れてしまうという事故はないだろう。
ひとまず風呂から上がるタイミングを見計らっていたアッシュだったのだが。
「……!」
急に背中に僅かな重みを感じ、アッシュは一瞬飛び上がりたくなるほどの衝撃に駆られた。
背中には確かに湯とは違うぬくもりを感じるのだから、多分そういうことで。
感触からして薄布は纏っているようだが、それでもいろいろと困るもの。
もうアッシュはどうすればいいか分からずに、ただただ固まるしかなかった。
結局アッシュが湯船から上がったのはエリスが去ってから随分と経った後。
ややのぼせ気味の彼を見て、エリスはどこか意地悪な笑みを浮かべていた。
最近こんなのばっかかもしれない。