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2025/06/07 19:55 |
ふたりの祭。
「お祭り行きたいな!」
 三色の少女が、努めて明るく催促した。
「駄目だ」
 モノクロの少年はにべも無く無碍にした。
「う~」

 不満そうに指をくわえる少女。白い服と赤い飾りと新緑色の髪。目も眩まんばかりのトリコロール。名をアリア。幼さを残した成長期の少女だが、中身のほうは成長の兆しも見えない。
 対する黒人の少年は、いかなる過去があるのか体毛が白かった。名をソヴィア。白髪白眉と黒曜石のような黒い肌が言葉では言い表せない神秘性を持っている。
 ソヴィアはアリアの年下の兄貴分で、常識の足りないところのある少女の補佐をしていた。例えば、この日本で派手な外見の外国人二人がどういう目で見られるかについてとか。

「それに、仕事が入った」
 二人は、この平和なはずの日本で特殊な立場にあった。
 常識の外側に住んでいた。
「あそこの祭は神を鎮めるためのものだ。失敗したら神が暴れる」
「神様暴れたら怖いよー」
「祭を邪魔する奴から祭司を守る依頼だ。遊んでいる暇は無い」
 アリアは不承不承頷いた。二人はこうやって生きてきた。神社の関係者とも知らない仲ではない。ただ、少し寂しかった。
 アリアもソヴィアも、日本という国に住むようになってまだ一年足らずだ。ある組織に拾われ、仕事はあるが概ね幸せな生活をしてきた。
 だが、危険な仕事でもあるのだ。幸せがいつなくなるか分からないのだ。

 そしてアリアは、この年下の兄貴分が大好きで、ずっと一緒に居たかった。

「ゆかた、着てみたかったな」
 灼熱の太陽の下。準備中の出店を抜け、連れだって神社境内へ。不満を垂れるアリアを、ソヴィアは黙殺した。
 神社境内では顔見知りの老巫女が待ち構えており、少し意地悪に微笑んだ。
「あなた方、目立ちすぎですね」




 昼の熱気は収まったが、夜店を回る人々が違う熱気を放っている。神輿と山車が並び、太鼓と笛がかき鳴らされる。女装の男と厚化粧の女が踊り、口笛や合い手が飛び交う。
「わるいひと、こなかったね」
 黒髪の少女が、化粧をした少年に声をかけた。金魚のゆかたにうちわ。もう片方の手にはりんご飴。
「まあ、来ないに越したことは無いさ、こんな夜を・・・」
 少年は言葉を濁した。柄にも無いことを言いそうだった。
「嬉しいし楽しいけど、ちょっとざんねん」
 少女は気付かなかったか、それとも聞かない振りか。少年を見上げて微笑んだ。
「やっぱり、いつもの顔がいいな」
 少年は少女の髪を乱暴に撫で、少女はかつらがずれて少し慌てた。
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2008/07/12 00:25 | Comments(0) | TrackBack() | R2OS

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