お祭り。
どこいつでその話をしたかはうろ覚え。けれどやる事もないしと……なんとなくと、少女は家のソファーで一人本を読みながら思い至った。
百科事典なんて目じゃないくらいぶ厚い専門書にしおりを挟む。外に出る支度、と言うのは特にない。後ろで結った黒髪を鏡の前でもう一度確認し、玄関の鍵を閉める。
外に出ると夕焼け空。一日中読書に勤しんだ体には少し刺激が強くて、思わず目を細めた。
石畳の坂道を少し下る。そうすれば町に着いて祭りの輪に入れる。そう信じていた。
色彩豊かな光が夜の町をいっそう盛り立て、普段とは違う祭り特有の賑やかさが躍っていたが、少女にはどうしても今日一日と名残惜しむようにも感じられてしょうがなかった。
賑やか。それは間違いない、と、少女はため息をついた。別に自分の考えが叙情的だったから、と、言うわけではない。あてが外れたから。
ここに来れば一人で居る寂しさくらいは紛らわせることが出来ると、そう思っていた。小一時間前の自分の考えの甘さに余計虚しくなり、ちょっと泣きたくなる。
少し歩いて町の真ん中にある噴水の縁に腰掛ける。そこは普段から町で一番賑わう場所。
(どうせなら祭りの終わりまで、終わりの静けさまで堪能してから帰ろう)
昔の思い出。お祭りがあって、静けさがあって……今は違う。そう、解かってる。つもり。けれど?
次第に人影が減り、店の明かりも消えていく。最後に店閉まいの音に混じった店主同士の雑談。幾度か心配されて声をかけられるが、丁寧に断りを入れた。
「嬢ちゃん、早く帰れよ?」
お祭りは終わりと告げられた。けれど期待したかった。
まだ少しだけ商人の姿が見える。深夜の到着なのだ、スケジュールが狂った者が多いらしく、安眠を保障される町まで辿り着いた者たちの表情は一様だった。
残ったのはゆらゆらと、心細げに揺れる街灯。ただ、その街灯の明かりに長い影が伸びていた。
小さく笑う。それから立ち上がり、付いた埃を払い……。
「遅すぎです」
と、小さく呟く。ただ、表情は柔らかく微笑んでいた。
「ごめん」
息を切らせて彼が言う。
「冗談です。三日も早く帰ってきてくれて凄く嬉しいんですよ……」
そこまで言って、言葉が続かず、代わりに抱きつく。
「……寂しかったです」
抱きつく口実のために今日一日があったのかな? そんな事を、突然の事に狼狽しつつも受け止めてくれる彼に感謝しつつ、ちゃっかりと思った。
「帰りますか?」
「お散歩なんてどうかな?」
「はい」
いつものように手を繋いでお祭りを後にする。いつも隣に居た彼は、彼女がこんなところに居た理由すら解からずに微笑んでいるが、少女は説明をする事無く、舌を出して笑うだけだった。
どこいつでその話をしたかはうろ覚え。けれどやる事もないしと……なんとなくと、少女は家のソファーで一人本を読みながら思い至った。
百科事典なんて目じゃないくらいぶ厚い専門書にしおりを挟む。外に出る支度、と言うのは特にない。後ろで結った黒髪を鏡の前でもう一度確認し、玄関の鍵を閉める。
外に出ると夕焼け空。一日中読書に勤しんだ体には少し刺激が強くて、思わず目を細めた。
石畳の坂道を少し下る。そうすれば町に着いて祭りの輪に入れる。そう信じていた。
色彩豊かな光が夜の町をいっそう盛り立て、普段とは違う祭り特有の賑やかさが躍っていたが、少女にはどうしても今日一日と名残惜しむようにも感じられてしょうがなかった。
賑やか。それは間違いない、と、少女はため息をついた。別に自分の考えが叙情的だったから、と、言うわけではない。あてが外れたから。
ここに来れば一人で居る寂しさくらいは紛らわせることが出来ると、そう思っていた。小一時間前の自分の考えの甘さに余計虚しくなり、ちょっと泣きたくなる。
少し歩いて町の真ん中にある噴水の縁に腰掛ける。そこは普段から町で一番賑わう場所。
(どうせなら祭りの終わりまで、終わりの静けさまで堪能してから帰ろう)
昔の思い出。お祭りがあって、静けさがあって……今は違う。そう、解かってる。つもり。けれど?
次第に人影が減り、店の明かりも消えていく。最後に店閉まいの音に混じった店主同士の雑談。幾度か心配されて声をかけられるが、丁寧に断りを入れた。
「嬢ちゃん、早く帰れよ?」
お祭りは終わりと告げられた。けれど期待したかった。
まだ少しだけ商人の姿が見える。深夜の到着なのだ、スケジュールが狂った者が多いらしく、安眠を保障される町まで辿り着いた者たちの表情は一様だった。
残ったのはゆらゆらと、心細げに揺れる街灯。ただ、その街灯の明かりに長い影が伸びていた。
小さく笑う。それから立ち上がり、付いた埃を払い……。
「遅すぎです」
と、小さく呟く。ただ、表情は柔らかく微笑んでいた。
「ごめん」
息を切らせて彼が言う。
「冗談です。三日も早く帰ってきてくれて凄く嬉しいんですよ……」
そこまで言って、言葉が続かず、代わりに抱きつく。
「……寂しかったです」
抱きつく口実のために今日一日があったのかな? そんな事を、突然の事に狼狽しつつも受け止めてくれる彼に感謝しつつ、ちゃっかりと思った。
「帰りますか?」
「お散歩なんてどうかな?」
「はい」
いつものように手を繋いでお祭りを後にする。いつも隣に居た彼は、彼女がこんなところに居た理由すら解からずに微笑んでいるが、少女は説明をする事無く、舌を出して笑うだけだった。
PR
トラックバック
トラックバックURL: