それは、ある依頼を終えての帰り道でのこと。
道中にある町で大規模な祭りが開催されているとのことで、アッシュはそれを見ていこうと提案。
エリスは人混みが苦手なので最初は渋ったのだが、アッシュの押しの強さにとうとうそれを認めたのだった。
町の人混みは二人の予想を遥かに超えたものだった。
道には露天と人が所狭しと溢れ、あちらこちらでにぎやかな声が聞こえる。
「どこかで待っててくれていいよ?」
さすがにこの人混みは辛いだろうとアッシュはそう提案したが、エリスは意外にも首を横に振った。
「…少しくらいなら」
確かに、この人混みで二手に分かれても後々合流できるか不安ではある。
それに宿も酒場もどこも盛況で、どこかで静かに過ごせそうな場所もなかったのだ。
とりあえず、二人で中心部から離れた露天でも覗こうかということになったのだが……。
これが最大の罠であった。
露天には見たこともないような品々が数多く並べられており、アッシュはその中でも使えそうな薬草や食品などを買い揃えていた。
そんな最中にアッシュはふと、肩にのしかかる重みを感じた。
振り返った先で見たものは……。
「エ、エリス?」
アッシュは慌てて倒れこんだエリスを両手で支えた。見れば彼女の顔はすっかり青ざめ、血の気を失っている。
買い物に夢中になって気づかなかったのだが、いつの間にか人が最も集まる中心部に来てしまったらしい。
周囲を見渡して見れば、人が密集し歩くのも精一杯な状況だ。元々こういった環境が苦手なエリスには相当厳しかったのだろう。
アッシュは、もっと彼女に気を配るべきだったと後悔した。いや、いつもならそれなりの配慮はしてきたつもりだ。
しかし今日はすっかり買い物に夢中になってしまい、結果的にエリスに限界を超えるまで無理強いをさせてしまった。
顔色の悪いエリスを支えながら、アッシュは慌てて人混みを後にした。
「……ごめんね?」
帰り道、アッシュは小さく謝罪した。
間違いなく怒られると思ったのだが。
「……別に」
意外にも、エリスからはいつもの返事が返ってきただけ。
拍子抜けするアッシュを尻目に、エリスはどんどん先へ進んでいく。
己の不甲斐無さも大概なのだろうが、とエリスは思う。
あんな楽しそうなアッシュを見て何も言えなくなる自分も、まだまだ甘いなと思わず苦笑した。
……甘すぎた(いろいろな意味で)