冬から、夏から、それぞれ一回ずつ、年二回の定例行事。その一つが衣替え。
ただの衣替えだから悲喜こもごもとか、そういう事はなかなか無い。けれど、区切りとしては非常に重宝する。これから暑くなるぞ、寒くなるぞ、というだけでなく。
「まだ寒くなってないんで、冬服とかあってもちょっと困りますよね。マクさんはそういうの、大丈夫ですか?」
お腹がいっぱいの時に晩御飯の献立を考える、と、同じニュアンスで少女が困り顔。マクと呼ばれたほうは小さな笑いだけ返している。
「あ、あの、去年の服、ちょっと小さくなってました」
そう語る少女は少し嬉しそうにうつむく。
「ユエは大きくなりましたか?」
マクがあやすようにたずねると、満面の笑みでこくこくと頷く。
「あ、でも、その……昔の、着れなくなりそうで、ちょっと嫌です」
そう言いながら脇に畳んである服を広げる。それは昔、マクが買ってあげた服で、少女にとっては特別の一着。
「ああ、裁縫道具は下だから今度直しておくよ」
と、白髪は作業に没頭するふりをしながら。
「裁縫道具?」
「うん、少し大きくすれば、まだ着れるよ……ところで、背はどれくらいになったの?」
半瞬の沈黙。マクが無言でメジャーを取り出すと、観念して少女がまっすぐに立つ。
「ふむ、一年で二センチ近く伸びてる」
「……ありがとうございます」
これで一段落と衣替えを再開するが、それもまたすぐに止まる。
「あ……マクさん、これ」
タンスの下段、冬服のさらに奥、取り出す予定の無い服を見てユエが声を上げた。
「ん? あ……それか」
「久しぶりで……ちょっと懐かしいです」
取り出された黒い制服。少し埃をかぶっているだけで、その重さ、感触は少女の記憶とまったく変わらない。
「ちょっと着てみませんか?」
「これ?」
「はい」
マクは少し躊躇いつつも、少女の期待に満ちた瞳と満面の笑みに屈したようで、苦笑いしながらも袖を通し始めた。
「相変わらずだぶだぶです……」
背が低い事を気にしてか、少し不機嫌にそうもらす。
「私のだしね」
自分より頭一つ小さい少女の頭を撫でながら笑う。
「でも、マクさんは……やっぱしかっこいいです」
「ん、ありがとう」
見慣れているから、はマクの蛇足。
マクは「ユエも」と、喉まででかかったが、この服では不本意なのでやめることにした。代わりに、もう一度頭を撫でて、恥ずかしそうにする少女を見て笑った。
日が暮れるまでには衣替えも終わり、黒い服はまたタンスの奥にしまい込まれ、来年の春の訪れを持っている。
ただの衣替えだから悲喜こもごもとか、そういう事はなかなか無い。けれど、区切りとしては非常に重宝する。これから暑くなるぞ、寒くなるぞ、というだけでなく。
「まだ寒くなってないんで、冬服とかあってもちょっと困りますよね。マクさんはそういうの、大丈夫ですか?」
お腹がいっぱいの時に晩御飯の献立を考える、と、同じニュアンスで少女が困り顔。マクと呼ばれたほうは小さな笑いだけ返している。
「あ、あの、去年の服、ちょっと小さくなってました」
そう語る少女は少し嬉しそうにうつむく。
「ユエは大きくなりましたか?」
マクがあやすようにたずねると、満面の笑みでこくこくと頷く。
「あ、でも、その……昔の、着れなくなりそうで、ちょっと嫌です」
そう言いながら脇に畳んである服を広げる。それは昔、マクが買ってあげた服で、少女にとっては特別の一着。
「ああ、裁縫道具は下だから今度直しておくよ」
と、白髪は作業に没頭するふりをしながら。
「裁縫道具?」
「うん、少し大きくすれば、まだ着れるよ……ところで、背はどれくらいになったの?」
半瞬の沈黙。マクが無言でメジャーを取り出すと、観念して少女がまっすぐに立つ。
「ふむ、一年で二センチ近く伸びてる」
「……ありがとうございます」
これで一段落と衣替えを再開するが、それもまたすぐに止まる。
「あ……マクさん、これ」
タンスの下段、冬服のさらに奥、取り出す予定の無い服を見てユエが声を上げた。
「ん? あ……それか」
「久しぶりで……ちょっと懐かしいです」
取り出された黒い制服。少し埃をかぶっているだけで、その重さ、感触は少女の記憶とまったく変わらない。
「ちょっと着てみませんか?」
「これ?」
「はい」
マクは少し躊躇いつつも、少女の期待に満ちた瞳と満面の笑みに屈したようで、苦笑いしながらも袖を通し始めた。
「相変わらずだぶだぶです……」
背が低い事を気にしてか、少し不機嫌にそうもらす。
「私のだしね」
自分より頭一つ小さい少女の頭を撫でながら笑う。
「でも、マクさんは……やっぱしかっこいいです」
「ん、ありがとう」
見慣れているから、はマクの蛇足。
マクは「ユエも」と、喉まででかかったが、この服では不本意なのでやめることにした。代わりに、もう一度頭を撫でて、恥ずかしそうにする少女を見て笑った。
日が暮れるまでには衣替えも終わり、黒い服はまたタンスの奥にしまい込まれ、来年の春の訪れを持っている。
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