忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2025/06/07 02:38 |
ドラ娘と衣替え

 大陸西部の街道を二頭立ての馬車が南下していた。幌付きの馬車は鉄製の枠がつけられており、かなり上等なつくりだ。引く馬は若くは無いが骨が太く、荷馬としては優秀な部類に入るだろう。
 御者席には禿頭の男と金髪の娘。金髪の娘は不安な様子で、馬車の前を歩く人影を見ている。
 馬車の前を歩くのは、防塵衣を着込んだ人影と、御者席の娘に良く似た金髪の娘。

 

「ユフィさ、歩きにくくない?」
 防塵衣の人影が、隣を歩く金髪の少女に問いかけた。ユフィという少女は額の汗を拭うと、首を振って応えた。何か言うのも億劫なのだ。豪華ではないが質のいいスカートは足にまとわりつき、装飾品が肩と腕に食い込む。高いヒールの靴は整備された道なら良いが、すこし路面が悪くなるとすぐに足を痛めつける。実はユフィの白い足は靴擦れでぼろぼろだった。
 御者台に座るユフィの姉も半日前に同じように歩いており、現在足に巻いた包帯に血を滲ませていた。
 姉は、もう少し歩いた。音を上げなかった。姉への対抗意識が無いわけではない。いつも温和な姉に負けたくない。しかし、それと同じくらいに姉の妹でありたい気持ちがあった。姉に誇ってもらえる妹でありたい。いつもそう考えていた。
 だから、まだ平気だ。


 何も無いところでつまづき、転倒する妹を見て飛び出そうとする姉を、禿頭の男が制した。有無を言わせぬ視線。足が言うことを聞かないのか立ち上がれない妹に、防塵衣が近づき肩を貸す。
「ルーシィさん、今行ってもあんたも足を痛めるだけだ。あいつが連れてくるまで待つんだ」
 心配で気が気でない姉。きっかけは、昨日。自分の発言だ。

 

「どうしてドラ娘さんはいつも歩いているんですか?」
 禿頭の男の隣に座ったルーシィは、当然の疑問を投げかけた。二頭立ての馬車は頑丈で、五、六人までならば安心して乗れるだろう。しかし防塵衣のドラ娘は、日中を常に歩いていた。


「あたしたちがどれくらい旅するか分からないけど、馬が結構疲れるらしいんだ」
 戸惑うルーシィ。禿頭の男を見るが、彼は視線をそらしてしまった。ルーシィと、今は馬車の中で寝ているユフィは、好意でこの一行に参加している。馬の疲労を考えるならば、誰であろう彼女ら姉妹こそがその原因ではなかろうか。
 故あって。
「私も歩きます!」
 となったのだ。

 

「大体、そんな格好で長時間を歩こうって言うのがおかしいんだ」
「ドレイクさんごめんなさい」
 禿頭の男が、ユフィを馬車に担ぎ込み、応急処置をしていた。無理をしていたのだろう。心配そうなルーシィがいくら覗き込んでも、妹は寝息を立てるばかりだ。
「とりあえず、今日明日は休め。まずは靴擦れを治さないとどうしようもない。明後日に町につく。そこで靴を買え。ついでに代えの服もだ」
「え・・・?」
 ルーシィは頬を染め、身を縮めて顔を隠した。眉をひそめるドレイクに、ルーシィは金魚のように口をパクパクした後、意を決した様子で尋ねた。
「に・・・臭いますか?」
「・・・お前ら、事情があって何かから逃げてるんだよな?」
「え!? ・・・ご存知だったんですか?」
 ドレイクは天を仰いだ。何も気付いていない振りを続けてきたのに、ついやってしまった。
「下着の替えもないだろうし、動きやすい服だってある。まだ臭いは気にならないが、いつかは臭くもなるだろうよ。それより何より、服や装飾品で足が付くとは思わないのか?」
 ルーシィはドレイクの言葉にしばらく呆然とした後。愕然とした様子で頷いた。
「ドレイクさんてすごいんですね!」
 ドレイクにはもう、言葉も無かった。

PR

2008/09/07 23:52 | Comments(0) | TrackBack() | R2OS

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<冬服と | HOME | 衣替えとさんにん。>>
忍者ブログ[PR]