休日の駅ビルは大賑わいだった。
あまり大きな街ではないので、衣料に関して言えば駅ビル内の専門店街と量販店が幅を利かせているのだ。
その分、食料品などは地元の商店街が奮戦しており、駅ビルでは全国チェーンの強みである種類や時間で対抗していた。
駅前で人待ち顔の少女に、小走りで近づく影があった。白い猫の帽子。白い猫の斜め掛けカバン。モスグリーンのワンピース。右手の傘のフリルが雨に塗れていた。
「おっそーい。目の前なんだから遅刻しないの!」
来た待ち人は三十分の遅刻。少女はメガネを直し、待ち人のファッションチェック。そして自分の綿のパンツとTシャツという姿にため息をついた。可愛くも色気もない。
「アリアが傘を捜していてな。自室にないからどこかに忘れたとマンション中を探したんだが、実は未開封で部屋にあった」
ため息交じりに、モノクロの少年。傘も色気のない黒。ある意味徹底している。
「ごめんね司!」
可愛いアリアの上目遣いな謝罪に、少女、新見司はため息で返した。あー。なんたること。可愛すぎる。
司はアリアの髪を撫で回し、そしてモノクロの少年に物言いたげな視線を向ける。
「オレは、財布」
「でも、今日はおこづかいもらってきたよ!」
小さながまぐちを取り出すアリア。モノクロの少年がそれを取り上げ、アリアのカバンに放り込む。
「月千円? それはちょっと少なくない?」
「司も思うでしょ? でも小遣いアップのためのストライキを予定しても、おやつを抜きにされちゃうからできないの・・・」
「おまえのおやつ代はどこから出てると思ってるんだ・・・?」
「ソヴィアの懐?」
「そうだ」
少年少女が談笑しながらパスタを口に運ぶ。動物性たんぱく質が食べれないアリアでも平気な店で、三人はよく一緒に来ていた。
このところ急に冷え込むため、秋物を購入しようという算段だ。
「まだ残暑が来るかもしれないからな、あまり暑そうなのはやめとけよ」
「えー、もこもこがかわいい!」
「カーディガンは? アリアのキャミソールは濃い色多いから、やっぱり白かな」
「あたし手が短いから袖余っちゃう」
「・・・」
「なにがおかしいのーッ!?」
あまった袖をたらすアリアを想像して、司は噴き出した。ソヴィアも失笑する。
司は、普通の人間だった。
アリアやソヴィアのような、闇の世界に生きる怪物ではないのだ。
司は一度、闇に捕まりそうになりアリアに救われた。肉体的にも、精神的にも。
それから彼女は、このすこし間抜けな娘が好きでたまらない。出来ることは少ないけれど、力になりたい。
そう考えていた。
「おそろいで買おうよ」
「んー、でも、ちょっと足りない・・・」
アリアのがま口に住んでいた新渡戸稲造は、パスタと、その後買ったポロシャツのせいで夏目漱石三人になってしまっていた。
司の指差した白いカーディガンは確かに欲しいが、ちょっと足が出る。
財布を取り出したソヴィアを目で制し、司は二人分のカーディガンを手に取った。
「じゃあ、後でおそろいのアクセ買ってよ」
きょとんとするアリア。司は満面の笑み。
「・・・うん! おそろいってはじめて、嬉しい!」
すぐに大喜びのアリアを見て、司は意味ありげにソヴィアに視線を向けた。
一緒にいる。一緒に何かをする。
アリアとふたりなのはソヴィアだけれど、自分もまた、時にはそこに立てるのだ。
笑みが隠し切れない司を見てソヴィアは、おそろいが無いのはファッションセンスの違いであることを口にするのをやめた。