晴れていた空にいつの間にか暗雲が立ち込め、やがて振り出した小雨はいつしか大粒の雨へと変わっていた。
そんな中を、リュコスは娘を抱えて家路へと急いでいた。
娘と遊んでいて天候の変化を気づけなかったことを後悔しつつ、ようやく家に帰り着いた頃には二人ともずぶ濡れになっていた。
腕の中の娘を見れば、外で鳴り響く雷の音に怯えてすっかり震えている。
「よしよし、もう大丈夫だ」
優しく声をかけながら、乾いた布でずぶ濡れの娘の身体を拭いてやるが、相変わらず娘は彼の腕から離れようとしない。
このままでは自分が着替えることも出来ないので、リュコスはどうしたものかと考える。
そんなとき、再び外で雷が鳴った。
「やぁ!」
再び彼にしがみつく娘。顔を覗き込めば、青と金色の瞳はすっかり涙で潤んで今にも泣き出しそうな顔をしている。
無理もないか、とリュコスはため息をついた。娘は、エリスはまだ三つなのだ。
とりあえず自分も着替えなければ、と思い着替えのある自室へと向かう。
不安そうな目をした娘を一度ベッドに降ろして、手早く彼女の着替えを済ませ自分の服を抜いたところで、また雷の音が響いた。
今度こそ泣き出してしまった娘をあやしながら、リュコスは着替えを断念してベッドの毛布にくるまった。
そして雷の音が鳴り終わるまで、外の雨が止むまで、ずっと娘を抱いていた。
「きゅ~」
スターチスは、エリスのひざの上で震えていた。
外は大粒の雨が降っているらしく、屋根に叩きつけるような音が鳴り響いている。
同時に鳴っている雷の音が怖いのか、スターチスはエリスの傍を離れようとしない。
「え、エリス大丈夫?」
彼女が未だスターチスに慣れていないことを知っているアッシュが代わろうかと声をかけたが。
「……すぐ止むだろうし、いい」
と、彼女にしては珍しい返事が返ってきた。
しばらくその様子を心配そうに見ながらも、やがてアッシュは夕食の支度に取り掛かった。
その傍らで、エリスは本を読みながらスターチスの背中を撫でていた。